火花

著者は、又吉直樹
主人公は、二十歳の駆け出しのお笑い芸人、徳永。
四歳年上の、お笑い芸人の先輩、神谷との出会いから始まる。
面白かった。
神谷は人というより、「青春」の象徴である。
青春という谷の底に落ち、そこで生きつづけていこうとしている、徳永についてくる貧乏神ならぬ「青春神」みたいな存在。
しかし。
青春とは、一時的なもの。必ず、その時期から、去らねばならないもの。死ぬ運命にあるもの。
その中で生きつづけようとすれば、異形なものに、変容していく運命にある…。
はじめて会ったときに、神谷は徳永に、自分の伝記を書け、と言う。
「俺のことを忘れずに覚えといて欲しいねん」
この台詞、暗示であり、キイであり、予知である。
青春神が異形神に変容しても、青春は、忘れるべきものではなく、憶えておくべきもの。
あなたは私の青春そのもの、という存在が、残骸のような様相となっても、受け止められる優しさを人は持てるんだろうか。
面白いと同時に、せつない感じや哀しみも満ちてくるのは、青春を経過している読者が、葬ってしまった青春をこの小説の中に見るからだと思う。
青春の当事者は、わがことのように、面白くて、切ないかもしれない。
きっと、哀しい気持ちが読後感想に加わるのは、青春を葬ったあとになるだろうけれど。