フードポルノ、キャリアポルノ

谷本真由美著:「キャリアポルノは人生の無駄だ」を読む。
自己啓発書を、キャリアポルノと命名した面白さ。
キャリアポルノというネーミングが生まれたのは、英語圏で一般的に使用されるようになっている言葉「フードポルノ」が源だという。
美しくてゴージャスでおいしそうに見える食べ物や、料理するシーンの写真、動画、読み物を楽しんで、欲望を満足させる活動を、「ポルノの鑑賞」に例えたもの。
フードポルノ好きな人は、必ずしも自分で凝った料理をしたり、紹介されている店や海外にまで料理を食べにいく手間や費用をかけるわけではなく、自身はジャンクフードをつまみながら、フードポルノを鑑賞すること自体が娯楽になっていく、とのこと。
つまり、二次元情報に触れること自体が娯楽になって、情報を元に、実践をするわけじゃない、ってことだ。
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これって、他にもあてはまるものが、いろいろある気がする。
例えば、私はファッション誌を楽しむが、実際にこれを着てみたい、欲しい、と思うのは、たいてい一誌につき、1コーディネート、あるいは1、2着で、実践に移すこともあるが、ひとつも実践することなく、鑑賞しただけで終わる場合も、多々ある。
そういう意味では、例えば、ファッション雑誌は、「おしゃれポルノ」だろうか。
さまざまなライフスタイルを、美しい写真や記事で推奨する、ライフスタイル雑誌やエッセイは、「ライフスタイルポルノ」とか。
英語誌で人気のライフスタイル誌「KINFOLK」の日本語版が先日発売されたが、立ち見したところでは、その方向の用途にもなりそうな雑誌という気配がしたなあ。
旅モノも、そうじゃないかな。
今は、海外旅行はぐっと身近なものになったが、かつては海外旅行が、ひと財産必要で贅沢な娯楽であった時代は、憧れの国に関する映画や写真集やエッセイや旅行記は、それらを見たり読んだりすることで、実際にそうしなくても、その国に住んだ気持ち、旅した気持ちになれる、「海外生活ポルノ」「海外旅行ポルノ」という役割を果たしていたかもしれない。
いや、それをいうなら、マンガだって、物語のテーマ別に、恋愛ポルノにも冒険ポルノにもスポーツポルノにもなるのでは。
林真理子は「野心のすすめ」で、裕福でも美しくも人気者でもなかった少女時代の自分を支えたのは、本を読み、本の中の世界や主人公になった気分を想像して楽しむ「妄想力」だと記していたっけ。
岡田斗司夫は、講演のなかで自己啓発書のことを、読んだ人がみな一億円稼げるようになったり、大成功を収めたりするわけでも、本気でそうなろうとして読むわけでもなく、ポジティブになるため、元気になるために読むんだ、と言及していたと思う。
あらゆる二次元情報の娯楽は、ポルノの要素を持っているんじゃないだろうか。
谷本真由美氏は、日本でキャリアポルノな自己啓発書が人気なのは、自己表現や自己実現を、「仕事」の分野に求めてしまう最近の風潮ゆえ、と指摘。
キャリアポルノ好きな人は、問題の所在が別にあるのかも(心的な問題とか)という心配までされて、ストレスチェック項目一覧もあげている。
著者は、非常に真面目な方なんだと思う。
私は真面目ではないので、読後感に得たものが、まるで不真面目な結果だった。
人はみな、自分なりのポルノを持っている。
心を元気にする作用のある、二次元情報を。
キャリアポルノがそれに該当する人は、どんどん鑑賞し続ければいい。
でも、世の中にはもっと色々なポルノがあるのだから、ちがったものに目を向けたり、取り入れてみるのもいい。
そういう意味では「キャリアポルノは人生の無駄だ」というタイトルは、正しい。
自分にあったポルノは、キャリアポルノじゃなくて、他にあるかも、という意味で。
「自分ポルノ」を探して、楽しもうってことだね。