きものを着たい女性人口って その2

前記事のつづき。
着付け教室の無料説明会で、受講希望者の意外な多さに驚きつつ、引き続きカリキュラムの説明を聞いてると。
あ、なるほどねえ、と腑に落ちたことがあった。
1回2時間のレッスン全10回のコースで合計5千円という受講料は、プロの着付けの先生の人件費や教室スペース分の家賃を考えれば、どうしたって原価割れである。
しかも、足袋と着物スリップは受講が決定したら無料でプレゼント、授業で使う着物や帯や小物や襦袢はレンタル可、手ぶらで受講ができるとうたっている。
どう考えたって赤字だ。
じゃ、どうして赤字覚悟でこの教室を開催するのか?
開催側の呉服店は、その点も明らかにしていた。
着付けを習う過程で、買いたい小物が出てきたときには、ぜひうちの店舗で購入してください、と。
もちろん、すべてのアイテムを持っている人に、ムリに何かを買わせる気はない。
決して悪質な店ではないのだ。
ただ、これは初級者コース、募集対象は着物の初心者、着物周りアイテム未所持の可能性の高い人々。
各クラス内のひとりやふたりは、小物どころか、着物や帯という大物を買う可能性も非常に高い。
えっ、でも、そもそも着物一式レンタルOKなのだから、何も買う必要はないんじゃなかった?
そうはできないようなカリキュラムになっていたのだ、これが。
全10回のレッスンのうち、まず4回目に「着物でプチお出かけ体験」の回がある。
覚えたての着付けをこなして、先生と一緒に教室から出て、屋外を着物姿で、ほんの10分ほど歩いてみる、というものだ。
この回では着物一式はレンタルするが「草履はレンタルしない」とある。
つまりこのとき、草履だけは自分のものを持参するか、未所持の人は買う必要があるわけ。
まずここで、草履を購入する受講者が大勢出るはず。
ネット通販で価格をチェックすると、草履の価格は8千円ほどかな。
説明会でこの回のことを、10分だけ歩いたら教室に戻ってきてください、と強調していたのもうなづける。
お店がレンタルする着物が絹なのかポリエステルなのかわからないが、外で着物や帯が汚れる事態になるのは、できる限り避けたいはずだもの。
この回を見越して、その前週の回では、お店で買える草履の紹介もするらしい。
しばらくしてから次に来るのが、8回目の授業、実践おでかけ講座。
具体的には、着物でお食事をする。このときの食事代は実費で、2500円程度までの食事になる見込み。
そして。
このときのレンタルは、いっさいない。
つまり、自前の着物一式で食事に行くというわけ。
この回で着物でお食事したければ、草履だけではなく、着物も帯も襦袢も、自分のものを用意しておかなければならない。
この回に向けての、お店側の準備も実はもっと前から始まっている。
悪質な店ではないから、着物も帯も、すでに持っている人にムリにすすめることはしない。
また、母や祖母の着物や帯を使いたい、という受講者には、そのまま着ることが可能か、ムリか、仕立てなおしが必要かの見積もりを、授業開始時から一ヶ月後まで受付。(ここで締め切らないと「着物でお食事回」に仕立てが間に合わないからだね。着物の仕立て期間は、だいたい一ヶ月、締め切り時期は「着物でお食事回」のまさに一ヶ月前だ)
仕立てなおしの料金だけで、新しい着物の反物代に相当したりするので、その場合は新しいものをつくったほうが懸命な選択になることもある。
自分サイズの着物一式を完璧に持っている受講者じゃなければ、ここで、着物や帯の購入、仕立て直し発注をする。
ここで、草履の数倍の売り上げが見込めるはず。
そして、この回で、「レンタルいっさいなし」なのも、わかるよ。
食事で着物を汚されたら、たまらないもん。
受講者自前の着物なら、安心。
残りのレッスン、9回目、10回目は、コーディネート講座などの座学や、修了試験。
そこで終わりというわけではなく、最終レッスンの約一週間後、修了証書授与式とパーティが。
このときのパーティ代は、実費支払いで、1万円程度になる見込みとのこと。
「着物でお食事回」は名古屋帯で済むかもしれないけれど、もしかしたら、パーティならば袋帯、ということになり、名古屋帯はもう所持しているけど、ここで袋帯も用意する気になる受講者も、大勢いるかもしれない。
事前にコーディネート講座をやるあたり、お店で買える袋帯の紹介だって、ぜええったいにやるはず。
・・・それに。
着物を知ったばかりの頃って、嬉しくって、有頂天で、一定期間、着物に狂う。
一週間後にせまるパーティに着物をもう一枚、は不可能としても、帯と帯揚げ、帯締め、バッグくらいは、パーティだから華やかなものを、という気持ちになる可能性は大いにある。
たしかに「着物でお食事」や「パーティ」という目標があったほうが、着付けを学ぶにも楽しいし、はりあいも出るけれど。
あらためて、まじまじカリキュラムを見直してみると。
私、この中で本当に受けたい回って、四回ぶんだけだなあ、と思った。
名古屋帯の着付け2回と、袋帯の着付け2回。
もちろん全10回受講したら受講したで、得るものは多くあるだろう。
ただ、私よりも熱く受講希望をしている人はたくさんいるようだし、私の中で、ちょっとひねくれた着物の好みのイメージが今つくられつつあるから、今はその途上を崩したくない気もするし。
というわけで、私は着付け教室の受講申し込みはしない、という結論になった。
ちなみに、着物一式を持っている受講者じゃなければ、受講料5千円以外にどれくらい費用がかかるかを見積もってみた。
以下は、素人の私が出した見積もり金額にすぎないが、このくらい出せば新品の着物一式は揃うのではないだろうか。もっと高価なものはいくらでもあるけれども。
着付け時に使う小物は無視し、「身に着けているアイテム」一式が「新品の絹もの」であるとして算出。
帯揚げ:2千円
帯締め:3千円
着物(小紋):5万3千円(反物代2万円、袷の仕立て代3万3千円)
帯:2万5千円
長襦袢:2万円(反物代1万円、仕立て代1万円)
草履:8千円
足袋:無料サービスなので0円
着物スリップ:同上
コーリンベルト:600円
帯枕:900円
帯板:1,100円
衿芯:200円
伊達〆2本:3600円(各1800円×2)
腰紐1本:160円
着物でお食事代:2500円
パーティ代:1万円
合計:13万60円
受講料は5千円。隠れた費用はこれだけ必要。着物一式をすべて持っている受講者じゃなければ。はは。