褒めるって難しい

人事部の同期から、メールがくる。
「さっき、あなたの上司がこっちのフロアに来て、あなたのこと凄く褒めていったよ〜」
はあ。そりゃ意外だ。きゅんとする嬉しさだけど。何年も一緒に仕事しているけど、じかに褒められたことないよ?
思えば、この会社に入って最初の上司だった人も、私には褒め言葉ひとつかけなかったのに、同じフロアの別の人とか、他の部署の私の同期に、褒めてたよ、ということがあったっけ。
(突如、思い出したが、小学二年生のとき、とても好きだった男の子がいて、実は両思いだったようで、それがわかったのは、その男の子がなぜか、クラス内の別の女の子に私のことが好きだって伝えて、その女の子がそれを私に言いにきたからだった…。)
しかし、しかし、その間接的な伝えかた、なに? テレですか?
どうして(日本人の)男の人って…。
そういえば、本人をじかに褒める人って、逆に信用できない、っていう出来事も思い浮かぶ。
大学生の頃、友人が、構内でひとりの女性に勧誘されて、それは○○教会だったのだが、そうとは知らずガイダンス的段階に、参加して。
友人に「私、このサークルに入ることにした!」と、その女性が持っていた名刺を見せられて「え?これってもしかして、○○教会じゃない?」と私が疑問をとなえ。
学生が自営している「学生相談室」なるものがあったから、そこの部室に行って、聞いてみようよ、とそこを尋ねた。
相談室の男子学生、名刺を見せたとたん、「ああ、これは○○ですね…」と即答。
ヒマだったみたいで、部室の机に座った友人と私を、4人の学生が取り囲み、「いいですか、対策はですね…」とアドバイス
どんな誘いの連絡が来ても、すべて、断ること。二度と会わないこと。電話も返さないこと。そうすればやがてあきらめるから。
相談室をあとにして、よかったね、早めに気づいておいて、と友人に話しかけて、勧誘した女の人って、どんなようすだったのかを聞くと。
「世界平和をたたえるような感じの映像を見せられて、その感想文を書くように言われて。
それで、感想文を書いてその女の人に見せたら、褒め方が凄いの。私の話のひきだしかたも、うまくて。凄く聞き上手でもあるの。
あなたって凄いわ!あなたはとても優れた感性を持っているわ!って感じで、凄い褒め方なの。」
それって…褒め方の訓練を受けているがごとき、だね。「褒め」で落とすのか。
ずいぶん過去の話だから、今は、勧誘の仕方も、かたちを変えているんだろうけど。
この「褒め」の戦法は、もしかしたら受け継がれているのかもしれない。
他に、思い浮かんだ例は。
以下の例は、「本人をじかに褒める」の変形。
人前で、「自分を褒める」というかたちである。
ある、年上の女性社員のお話。その人は、実は離婚したの、と私に打ち明けて、でもこのことは絶対に口外しないで!と口止めされる。
手続き上、どうしても連絡しなくてはならない人事部の担当者にも、社内の他の社員には絶対に知られないように、と頼んだとか。
それ、実は私の同期のひとりも同じ行動をしていた。離婚したことって、そんなに社内の人に知られたくないことなのかなあ。いつかは知れることなのに。
それで。
不思議だったのは、その女性社員、離婚したのに「このあいだ旦那がね…」という感じで、(元)夫の話題を、聞かれているわけでもないのに、頻繁に、自発的に社内の人間にもちだすのである。
傍らで、私は、はらはら。離婚したことを知られたくないのに、なんで離婚した旦那さんの話題をわざわざ自分から持ち出して、仲の良さをアピールするわけ?
どんな心理で、そうなるの?
それから、しばらくたってからあった、別の出来事。
税務署から、ある専門職員の所得税の追加納付の通知が来た。
追加納付が必要とされた年と、その前年の扶養控除申告書を見比べ。
あれ、扶養者の中から、娘さんの名前が消えている。違いといえば、それが違いだった。
ということは、この娘さんが、扶養控除対象から外れていたのかもね、年齢的に結婚したとか?。
そこで、その人と通常やりとりのある担当者に、連絡を入れてもらった。
すると、担当者から。
問い合わせのメール内の、どうってことのない点にあげあしをとって(娘さんの名前を、ひらがなで送ったという点)、
「娘の名前はひらがなじゃありません。娘は結婚していません。」としか、返事が来ないんです〜という知らせが。
担当者が言うことには。
「いつもは、こんな素っ気無いメールをするような人じゃないんですよ。
私と顔を合わせたときにはいつも、奥さんのことや、娘さんの話題ばっかりで、自分たちは、どんなに仲がいいか話しているんです。」
…それ、もしかして。
あの離婚した女性社員と同じ心理による行動だろうか…。
娘さんが扶養対象からはずれたのは、結婚ではなく、奥さんと離婚をして、奥さん側の扶養者に入ったからでは?
たぶん何か、自分の聞かれたくないことを聞かれることを恐れているんだ。
ビジネスライクに、会ったことのない私から、直接話をしてみてください〜と担当者に言われ。
その人に電話をかけて、事情にはいっさい触れず、書類を郵送しますので、追加納付分を振り込んだら、連絡をください、とだけ、告げる。
異議がいっさいなかったから、たぶん本人に心当たりはあるんだろう。
聞かれたくないことが、奥さんと娘さんに関係したこと、だったら。
なんで、周囲が聞きもしないのに、進んでそのことを話題にしていたんだろう?
前者の女性社員も、後者の専門職員も、「配偶者やこどもと仲のよい自分」を、人前で褒めていた。
人前で、というより。
あれは、自分への褒め言葉を、自分で紡いでいたんだ。
人に聞かせるのではなく、自分に聞かせていた。
自分を褒める言葉が、自分にじかに、降り注いでいる状態をつくっていた。
そういう観方をとると、これも一種の、「褒めたい相手を、じかに褒める」こととなる。
ほら。
この「褒め」と、○○教会の勧誘人の「褒め」に、共通しているのは。
「偽り」だってこと。
じかに褒めること、って、偽りのにおいが、ぬぐえないことがある。
日本人特有の現象だろうか。
…なんて推理を、すべて一息で、吹きとばしてっ。
私をじかに褒めない人たちの心理は、たんに私が怖いだけ、かしら。