再会を待つ

眼前にあるもの、起こっていること、にその場では気づかず、あとになって、それがなんだったかを知る経験をした今日。
言葉にすると、3つ。
正客、黄金繭、佐波理。
市が所有管理するかつての豪商の邸宅の庭園内茶室で、誰でも参加OKの茶席に、母と出かけたところ。
母が係の人に案内されたのが、いきなり正客の席だったのだ。ふたりとも着物だったせいかな。私は母のとなりの席。作法、ぜんぜん私は知らなかったの…しかし母は半世紀前に茶道を習っていたので、母の真似をしてしのぐ。
菖蒲の茶菓子や棗が、初夏礼賛のようで、こころが高揚…。
この茶室内で眼前にしていた、私が未知のものを、後で母が教えてくれる。
茶席の正客は、亭主と話をして場をつながなきゃいけなくて、だからみんな正客席にはなかなか座りたがらないが、正客が来ないと茶会を始めることができないというジレンマがある。思えばあの茶席で、空席ラスト二席が正客とそのとなりの席だったのは、そのせいか…。
たまたまそこにふらりと母と私が来ちゃったのね。
それと、茶席でお茶をたてていた女性の着物は、黄金繭の糸の着物、帯は佐波理だよ、とも。
黄金繭?佐波理?
何かファンタジー小説に出てくる言葉のようだ。
前者は…希少な黄金の糸で織られ、全く別の色に染めた後でも、黄金色が反射する布。
後者は、さまざまな鉱石を立体的に織り込んだ帯。
そんな凄いものを眼前にしながら、私には何も見えてなかったんだな。
正客と、黄金繭と、佐波理の3つの事象にすれ違ったのに、すれ違った後で、その事象に初めて、出会った。
今度はいつ、会えるかなあ。
再会の運命があるからこそ、その存在に出会ったんだと思いたい。