色はハズすな

スモーキーな色合いの口紅が流行ったころに、自分でも試してみたことがある。
とたんに、顔色悪いね〜だいじょうぶ?という周囲の声が続出した。
特殊な用途でもない限り、私が使うべき色あいの口紅ではなかったと、痛感した。
口紅ひとつで、これだけ顔色の印象が変わるということは、服の色も、影響力を持つに違いない。
以前から、パーソナルカラー診断の存在は知っていたが、ネットで見つけた自己診断ツールで済ませてしまっていた。
それによると、私のパーソナルカラーは夏。青みベースの色を、日陰で見たような色あいである。
ウェブ上で該当カラーが表示されているが、表示技術の問題で、どうしても本物の色とはブレが、あるらしい。
まあ費用をかけて、直接カラー診断にいくまでもないか、と思っていた。
しかし、事態はいまや、いつか、○スなのが理由で殺されでもしたら、という生死をかけた問題となっている。
たまたま、六本木ヒルズ内で開催されている、アーテリジェントスクールの中に、パーソナルカラー診断の講座を見つけて、申し込んだ。1回限り、2時間だけの講座なので、価格も3千円ほどと、お手ごろである。生死をかけた問題となっているわりに、出費を躊躇するケチな自分だ。
当日の参加人数は50人ほど。まずは講師の、パーソナルカラーの概要説明を聞く。
ウェブの自己診断ツールと同じく、春・夏・秋・冬の四季名にカテゴリ分けされている。
この中のどれかひとつが、その人に合う、パーソナルカラーとなる。
講師は、各季節の色見本を「布」で持ってきていた。
そう、ウェブ上でも紙面でも、三次元のものを二次元に変換する技術には限りがあり、まったく同じ色は再現できない。
私は三次元で生活し、三次元の世界で「○ス!」と評価されているのだから、三次元上の色を見て取り入れていかないと、などと色々考える。
講師は、多様な言葉を使って4カテゴリの色を説明してくれたのだが、結局、私の中ではこんなふうに解釈している。
春と秋は、イエローベース、夏と冬はブルーベース、春と冬は、日向で見た色、夏と秋は、日陰で見た色。
説明が終わると、いよいよ受講者のパーソナルカラー診断が始まった。
50人の受講者を、手早く診断していく。
ひとりずつ前に出た椅子に座り、色見本の布を顔の下に当てていくので、他の受講者もいっせいに、診断中の一名のようすを見物する状態である。
私の番になって、前の椅子に座る。すると、距離をおいて正面に置かれた鏡に映る自分の姿よりも、いっせいに自分に注目する49名の顔のほうに目がいく。
本物の鏡より、49名の様子が鏡になるのだ。面白い。実をいうと、自分で見ても、自分に似合う色なのかどうか、いまいちわからなかった。むしろ、他人のほうがわかるのではないだろうか。
49名の受講者の顔つきは、色見本が変わるたびに、「えっ」「あっ」という声にならない声を発しているように見えた。
講師が「非常にわかりやすい人ですね」と言う。この日、講師がその言語表現を使ったのは私にだけである。
よっぽど色に左右されるタイプだったらしい。
診断結果。
「冬ですね」
(ええっつ!!)
講師だけではなく、49名の受講者にも納得のムードが漂う。
え? 私、夏じゃなくて冬?
夏は、日陰で見たような青みベースの色だが、これが、冬だと、日向で見たような状態となるので、日向に引き出された色たちが、一転して鮮やかになる。
真っ黒と真っ白が似合うのは、実は冬の人だけ。ゲレーも似合う。ただしベージュは、ほぼ全滅。
たっぷりの白に、一滴だけ色を落としてつくったような、アイシーな色あいもある。(あまりに強い光があたりすぎたような色だね)
意外性も大きかったが、鮮やかな色がそろう冬の色の服を着てもいい、という結果がとっても嬉しかった。
何より、黒、白、グレーがOKなんて、非常に服が選びやすいではないか。
さあ、これで私はもう色選びに困らない、と思いこんで講座を後にする。
しかしそれは、甘い考えだったのだが。