バッグと帯

バッグも、服とコーディネートするものだと知ったのは、二年ほど前。
西村玲子による、街角で見かけたおしゃれな人たちを、再現イラストとともに語るエッセイを読んでいたら、服だけではなく、バッグの合わせ方をも褒めていて、驚愕した。
知らなかった。バッグも服に合わせなきゃいけなかったのか。
ほんと、自分の非おしゃれっぷりが情けない。
バッグは、靴の色と同じにしておけばいい、とだけ思っていた。
すると必然的に、黒いバッグばっかりになる。(汗)
さて、日本の女性ファッション誌は、着回しの記事が豊富だ。毎号のメイン記事といってもいい。
一方で、インスタイル、ヴォーグ、ヴァニティフェア、バザールなどの海外ファッション誌を見てみても、着回しの記事は、ほんのちょっとか、なきに等しい。
日本のように、着回し術二週間コーデとか、一ヶ月コーデとか、はては365日コーディネートなんて、凄すぎる記事は、ない。
たぶん、編集術、組み合わせの術に長けているんだなあ、日本人って。
それに、同じ服装を続けて着ているように見られたくない、という他人軸評価の問題か。
自分は読者対象年齢にヒットしない雑誌だが、「クラッシィ(CLASSY)」。
ここの着回しコーデ、面白い。
何が面白いかというと、バッグも一緒に、着回し(持ち回し)している点だ。
服とともに、三、四個のバッグがセレクトされ、20パターンほどの服装に付加されている。
同じ1個のバッグが使われている服装を、追いつづけても、面白い。
「差し色」になるバッグ、「なじみ色」になるバッグ、「遊び心」を付加するバッグ、など、役割を分担されたバッグたちが、それぞれの服装に寄り添って、配置されている。
そっか、こうやって、自分のバッグを選んでいくべきなのか。
「クラッシィ」の着回しコーデは、ひとつのスタイルの、構成アイテム数も少ない気がする。
シンプルで、きれい目な感じ。
ひとつの服装のアイテム数が少ないと、情報量も減るせいか、見た目に落ち着く。
これは、自分にも取り入れていこう。
ただ、「クラッシィ」に漂う「トロフィーワイフになることこそ、至上の幸せであり、最大の目標」という世界観には、個人的にどうしてもついていけなくって、連続購読はしていない。
先月、ある海外ファッション誌で、エリザベス女王在位60周年記念の宮中晩餐会に出席したロイヤルセレブを、その装いを中心に紹介した記事があった。
そこには、日本の天皇皇后のお姿も。(日本じゃなくて、海外誌で知るってところが不思議だが)
美智子様は着物だったが、その帯の美しさに、見惚れた。
尾形光琳の、燕子花図屏風の図柄を織った帯。
主役は帯だ。シンプルでアイテム数が少ないからこその、存在感ひきたつ、美しい装い。
帯を際立たせるためには、他はシンプルでいいってことなんだなあ。
ふと、思う。
日本女性が、日常着から「帯」を失った場合、その代わりになるものって、何だろう?
もしかして、それは、バッグじゃないか?
帯もバッグも、服装にコーデするもの、いわば服装の一部とするならば。
表面積的には、帯に似通っているものって、ベルトじゃなく、バッグじゃないか?
女性が、男性よりも、より多くのバッグを買い求めてしまうのは、男性に比べて、女性の帯が圧倒的に、デザインの要となるだけの存在感の大きさゆえ、さまざまなデザインの帯を揃えたくなるのと、同じ心境になるんじゃないか。
なんせ、本にも、帯を巻いちゃうくらいの、帯好きな民族なのだからして。
今年の春頃、シャネルのリトルブラックジャケットを、さまざまに着こなすセレブたちの写真展が催され、私はWEB上で何点か、写真を見た。
その人のアイコンとなるバッグを持って、ジャケットを着ているセレブが(私が見れた範囲では)二人いた。
エルメスバーキンバッグを持つジェーン・バーキンと、ヴィトンのSCバッグを持つソフィア・コッポラ
そして、この写真展のモデルになった日本人のひとりに、蒼井優がいた。
彼女のコーディネートは、ブラックジャケット+帯だったのである。
当初この写真を見たときは、「日本」を強調するために、ヘンテコなコーデをされちゃったなあ、と思った。
だが、海外のモード界から見ても、帯は、日本人のアイコン的ファッションとして、印象的で、強烈な魅力を持っているのかもしれない。
これも今年の春頃の話。
銀髪のショートカットで、ジャケットとパンツ姿のほっそりしたおばあさま、が前方を歩いていた。
その方、ケイトスペードっぽい、アール・デコな形のリボンがついた、アイシーピンクのクラッチを抱えて、同じくアイシーピンクのバッグを持った、バッグ二個持ちスタイル。
このバッグで、おしゃれ度が一気に引き立っていた。
着物の場合、年をとっても、帯はいくらでも派手なものを選んでも、OKらしい。
たぶんそれ、バッグにも応用できそうだ。
今は私は、キュートな要素のあるデザインのバッグには、手を出していないが、もしかしてもっと年をとったら、逆にキュートなバッグを持つと、楽しいかもしれない。
差し色ならぬ、差しキュート、が、おばあさまには、こんなに利く。
帯をコーディネートしてきた、日本人の遺伝子があれば、バッグのコーディネートもうまくなれそうな、気がする。