赤のトレンチ

トレンチコートが行き交うシーズンになった。
見かける色は、ベージュかネイビーか黒。
私は、今だっ!とばかり、去年の秋に買った無印のネイビーを愛用中である。
一週間前の休日、街を歩いていると、目の前を深紅のトレンチコートが横切った。
不意打ちのような綺麗さに、はっとした。
その赤いトレンチを着ていたのは、まちがいなく五十代以上と思われる、ブロンドの女性だった。
同じ電車に乗り、そのマダム(と思わず呼んでしまう)が座った席の向かい側に座って、マダムを盗み見。
黒のフレアパンツかと思ったら、裾がフレア気味の、ブラックデニムだった。
はっきりとしわが刻まれた顔に、シルバーのカチューシャと、大きなダイヤのイヤリングが光っている。
誰も着ない深紅のトレンチを気負いなく着こなした、細身で足長な、こんな素敵な生の五十代(もしかして六十代かも)、なかなか見られるものではない。
日本人の素人がどんなにがんばっても、このマダムの着こなしには到達できない気がする。
つくづく、洋服って、西洋人のための服なんだよなあ、と吐息。
以前から、街中で欧米系の女性を見かけると、その素敵さに、目をうばわれていた。
着ているのは、高価な服でも、ゴージャスな服でもなく、カジュアルで定番な服装なのにも関わらずである。
ボトムはデニム、トップスはブラウスやシャツやTシャツという定番さ。
なのに素敵で、目をひく。
色使いも、鮮やかな色を小さな面積で使っていたり、ロングカーディガンとインナーとストールを微妙に異なる彩度にして、ブルー系のグラデーションをつくりあげた芸術的な着こなしをしていたり。
冬ならダウンのショートジャケットと、ブーツが加わる。
このダウンのショートジャケットの丈が、後ろはヒップの末端がジャストで隠れるくらい、前は足のつけ根ぎりぎりにくることがポイントで、つまり、最大限に自分の足を長く見せることができる丈なのである。
欧米系の女性たちの体型は、日本人に多い(私も含めて)垂れ尻とは縁遠く、ヒップがあがっているので、足の付け根とヒップの終端の位置がほぼ同じ線上にくるから、前か後ろ、どちらか一方に合わせれば、不要な丈の部分がでないんだよね。
たぶん彼女たちは、「自分の丈」のジャケットを、見つけることに、力と時間を注ぐのだろう。
ちなみに、基本的にスリム体型の女性ばかり。
最後は、土台(体型)づくりが重要ってことかもね。