おばあちゃんの着こなし

「おばあちゃんのオシャレ採集」(著:堀川波)を読んだ。
目が開かれた感じ。
新しい「見る楽しさ」を貰った。
新しく加わった「見る対象」は、おばあちゃん。
ここ何年か、○ナイテッド・アローズのオフィスの近くを毎朝歩くので、トレンドな大人カジュアル服を着て出勤する女性の姿を、多数目にしてきた。
以前は、ちょっと真似してみたものだが、イメージコンサルティングを受けてからは、大人可愛い感じも、丸みのあるシルエットも、崩したカジュアルも、避けていい、と学んだため、すっかり観察者の立場で、見る楽しみだけ貰っている。
新しくて若々しくてトレンドな服装の女性たちに目をとられて、それ以外に目を向けること、がすっかり抜け落ちていたのかもしれない。
「おばあちゃんのオシャレ採集」は、おばあちゃんたちをふんわり包む、著者の優しい観察眼に心打たれて、こちらの眼も開く本。
ラベンダー色のカーディガンとワンピースのおばあちゃんのイラストには、
「年をとると色素が抜けるのか、肌も髪も透き通るように真っ白になっていくので、明るい色がとてもきれいに映えます。」と添え書き。
おばあちゃんの定番スタイルには、体と暮らしに根ざした意味があることも指摘。
おばあちゃんが、しっかりした履きものやスニーカーを履く理由。
「おばあちゃんは、ゆっくりゆっくり歩きます。おなかがぽっこりしているのに、ふくらはぎのない細い足だから、ぐらぐらふらついたりします。」
リュックやななめがけバッグ、カートをころころ転がすのは、重いものを持てないゆえに。
おばあちゃんは冷え性で、かつ肩がこるような重い服はさける。
だから、靴下の重ね履きや、首の巻きもの、カーディガンやチョッキなど軽い服の重ね着おしゃれが得意。
おばあちゃんはものを大事にする。
だから、古い服を大切にし、昭和柄の、ヴィンテージのワンピースを着こなす。
おばあちゃんの巻物やめがねや杖や買い物かごなどの小物や、ヘアアクセサリーやヘアネットを使ったヘアスタイルなども採集されていて、楽しい。
週末にさっそく、おばあちゃんを見つけたら、そっと観察。
外出しているときのおばあちゃんは、たしかに、それぞれ自分なりのおしゃれをしている。
地下鉄にのりこんできたおばあちゃんは、ヘアネットをかぶり、まとめ髪の上に珊瑚の髪留めをして、柄物のスカーフを首に巻いている、まさに定番ファッション。
帰宅途中で見かけたのは、柄物のリュックに、スニーカー、茶色のニットと茶色のパンツのおばあちゃん。
おばあちゃんには、おばあちゃんの体のフォルムがあって、それに馴染む服装を選んで、ほんのりつつましいおしゃれもして、ということか。なるほどなあ。
過去に、なぜか、「おばさん」段階を通ることには拒否反応で、「私は若くなくなったら、可愛いおばあちゃんになる!」と断言する知り合いがふたりいた。
うちひとりは、さらに「若い女の子に負けない可愛いおばあちゃんになるのです!」とブログに綴っていた。
それを読んだ私は、いや、それは無理だよ、若い女の子には負けるに決まっているじゃん、と内心つぶやいていたのだが。
なぜそのふたりが共通の発想に行き着いたのだろう、と今考えてみると(そのふたり同士は知り合いではない)、発言時に共通していたシチュエーションは、自分の「老け」を感じたとき。
そして、ふたりともどちらかというと、自分の容姿や、女らしさに対して、ナルシスト度が強めだった。(少なくとも私よりは)
ふたりともなぜか自らを「おばさん」になるとは認めたがらず、「おばあちゃん」になることは許容。
年齢的には、「おばあちゃん」より「おばさん」の方が若いはずなんだけど。
ふたりが抱いていた「おばさん」のイメージは、性的対象から除外され、間違いなく「若い女の子」に負けるのが明らかな存在だったと思われる。
しかしそこで「おばあちゃん」に飛躍してしまうのは?
おばあちゃんは、性的対象を超越するから、性的対象として、生物的に高得点な若い女の子とは、同じフィールドで比較ができない。
だから、そもそも勝負ができない→「負ける」という状態にはならない、ってことかなあ。
「おばあちゃんの鑑賞の仕方」を身に着けた人がもっともっと増えたなら、彼女たちの望みはかなえられる、ということかも。
母親だろうが妻だろうが独身だろうが、中年女性、いわば「おばさん」は、ファッション誌やマーケットにターゲットにされている状況からして、市場にとって、お金になる存在ということだ。
「おばさん」にハイブランドの服や小物や宝石や、若作りファッションを煽ることで、お金を使わせる。
でも、おばあちゃんの着こなしは、どう考えてもお金にならない気がする。
だから、今のところ、ファッション市場は、おばあちゃんの着こなしには着目しない。大金を生まないから。
見栄をはるためでもなく、若作りでもなく、流行とも関わらず、必要で、自分が好きなかっこう、自分軸の着こなし。
エシカルなファッションって、おばあちゃん的ファッションってことなのかも。