トラベル・ジュエリー

前記事のつづき。
三年くらい前、「ジルコンマニア」でリングを買った。
カタカナにするとヘンテコになるが、もともとは、「ジルコニア」の英語綴りの途中にmaを挿入した、という茶目っ気のあるネーミングである。
ジルコンマニアは、お金持ちが、旅行中に身に着ける模造ジュエリー(本物を持っていって旅行中に紛失すると損害なので)が発祥の、ダイヤそっくりに作り上げたジルコニアのアクセサリーのメーカー。
ジュエリーの良し悪しなど、とんと解らない私なのだが、たしかに、そのリングをつけていると、超驚かれるシチュエーションが何度もあった。
ジルコンマニアが謳っていた、本物そっくりにつくりあげる技術力、って本当だったのね、と思った。
ためしに、このリングをはめて外出することにした。
会社では邪魔になるので、はずすことにする。
駅の構内で、こちらに向かって歩いてくる人が、ぐっと顔を向けて来たので、あ、顔を見ようとしている、と気配を感じ、すっと手を顔にかざす。
無言。
顔が見えなきゃ、何もコメントできないよね。
電車の中で、ずっとこちらを見ている人がいたが、電車の中って、立って静止したままだから、顔の前に手をかざすのもヘンかなあ、とその人側の、顔の横の位置に手をあててみる。
すると、私の方を見るのをやめて、身体自体を反対側に向けてしまった。
私を見る→評価をくだす、に達する前に、阻止できたみたいだ。
リングの効果があったのかなかったのかは、わからない。
顔を見ることも、評価を下そうということも、止めてしまう気にさせる効果が。
顔を評価されそうな気配を相手から感じ取ったら、顔を隠す、ってまるで武道をたしなむようではあるが。
哲学研究者であり、武道家でもある内田樹も、自分に対して害を及ぼしそうな人物を、感知して逃げる能力が自分にはあると思う、っぽい見解(かなりいいかげんな記憶だが)を著書で述べていたから、これも、私のひとつの防御の行為だとでも思って、続けてみよう。
しかし昨夕、タイマッサージを受けて、へろへろの身体でぼうっと歩いていて、ちょっと余所見をして、正面に顔を向けたら、前方間近に人がいて、「ブス!」と不意打ち攻撃。
油断してたよ〜。
つづく。