帯から始まる

大丸東京の着物屋くるりの店内で、目に入ったもの。
それは、博多織の、献上柄の名古屋帯だった。

オフホワイト地に、ラズベリー色と、ピンクと、黒の配色。
か、可愛い・・・。
なんてキュートな配色なんだろう、と感動。
献上柄の博多帯は、私が木綿のきものを着てみよう、と思ったきっかけになった本「きものは、からだにとてもいい」の中で、著者三砂ちづるがヘビロテしている帯として、写真とともに紹介されていたのだ。
だから、私の頭のどこかに「献上柄の博多帯」が刷り込まれていたともいえる。
献上柄は、江戸時代に成立した、古典柄の定番のひとつで、一年中着用OKな柄である。
季節感を重んずる着物の世界は、布地ひとつ、柄ひとつとっても、季節感に左右されるものがあるので、一年中OKな柄だなんて、初心者の私には助かる。
さらに、この日までに、ネットショップで帯をチェックしていると、「在庫なし」率が意外に多い、ということにも気がついていた。
おそらく一ショップ内での、ひとつの帯の在庫数そのものが、少ないのかなあ。
もしかしたら帯って、一点ものがあたりまえなのかなあ、たしかに、量産するようなイメージじゃないしなあ、なんて思っていた。
だから、これは、と思う帯に逢ったら、手に入れておいていいのでは、(価格にもよるけど)とも思っていたのだ。
私は、くるりの店内で、「帯惚れ」状態に陥った。
配色の可愛さ、献上柄であることに加えて、名古屋帯であることも気に入ったポイントだった。
これも「きものは、からだにとてもいい」の中に、「初心者は、まず半幅帯で練習を」とある。
半幅帯は、お太鼓をつくる帯(袋帯名古屋帯)の半分の幅のサイズで、浴衣などに用いられ、リボン結びっぽい感じで結び、若々しさ、カジュアル感が増す。
また、背中にくる結びの部分を、あらかじめ前で結んで、後ろに回すことができ、その点で、手を背中にまわしてつくるお太鼓よりは、結び方が易しいとのこと。
しかし、私は前日、「衣装らくや」の初めての着付け体験レッスンで、お太鼓がすっかり気に入ってしまったところだった。
お太鼓結びは、帯の仕上がりが最も平面的になって、着物姿が「こけし」ルックともいうべき直線的なスタイルになる。
(お太鼓は外国人が見ると、なぜ背中にクッションを背負っているのか?と不思議がられるらしいとも聞くが。→林真理子著「着物の悦び」より)
それで私、この「こけし状態」がなぜだかとっても気に入ってしまったの。
わざわざこけし状態が崩れる、別の帯の結び方は、今のところしたくはなかった。
半幅帯の結び方は、お太鼓ほど平面的ではないこと、それに私は平均より背が高いので、帯の幅が半分だと、間延びした感じになって、バランスが悪いのでは、と思ったのだ。
そして、目の前にある帯は、お太鼓がつくれる、名古屋帯だった。
値札を見ると、52500円。
新品の名古屋帯としては、安くはないが高くもない気がした。
それに、一年中使える柄なのだ。
先日、恵比寿で見かけた人が締めていた「うなぎ柄」のお太鼓など、年に二週間くらいの土曜の丑の日シーズンにしか着用できないのに比べれば。
ふつう、きものを始めようと思った場合、順序としては、まずは反物選び(つまり着物そのもの)だと思う。
次に、きものに合う帯選びに進むのだろう。
ヘンかもしれないけど、帯から始めるのでもいいんじゃないだろうか。
個人の自由なんだし。
くるりオリジナルのその帯に使われているラズベリー色は、「すもも色」とのこと。
なるほど、色の名前も日本語でつけるのね。
同じ「すもも色」を使った、銀糸の入った帯締めも、同色を手に入れるチャンスを失うよりは手にいれておこう、と一緒に購入。
銀糸の入っていないすもも色の帯締めもあり、そのほうが木綿のきものにはふさわしいかもしれないが、明らかに銀糸入りのほうが帯がいきいきするんだもん。
帯揚げは、自分の中でイメージが不明瞭だったので、買わなかった。
さすがにきものが決まらないと、帯揚げのイメージって、わかない気がする。
(この考え方が正しかったことを後日知ることになるのだが。)
こうして、私のきものは、帯から始まったのである。