紅葉狩り、銀杏狩り

今週のお題「紅葉」
着物で外出するならば、春と秋がチャンス。
防寒対策、暑さ対策が不要だからである。
初心者の私は、まだその準備も知識もない。
冬と夏に無理して着物をきるのは、まだ先にしたい。
気が付けば、冬が忍び寄っている。
からりと晴れた先週末、冬になる前にもう一度、着物を着ておこう、と決意。
着物で、プチ紅葉狩り、プチ銀杏狩りだ。
紅葉狩りの目的地は、着物初心者の私には無謀な気がしたが、根津美術館の庭園へ。
以前、根津美術館の周辺で、着物姿の女性を何人か見かけたことがある。
調べてみると、根津美術館では経験者限定、会員制の「青山茶会」なるものが定期的に催されていた。
茶会に参加できるような方たちの前へ、着物初心者の私が、のこのことポリエステル小紋と献上柄の博多帯というカジュアルな姿を現す自信はない。
しかし、先週末は、茶会の開催日ではなかった。
この小紋も帯も気に入っているんだし、紅葉を見たいんだし、行けばいいよ!と自分で自分を後押し。
初心者は怖いもの知らずなのだ。
というか、何が怖いのか、怖さの正体もまだわからないからだね。
根津美術館に到着すると、館内より先に、庭園に向かった。
意外なほどに起伏に富んだ園内は、期待したとおり、方々が赤く色づいた紅葉に彩られ、明るい陽射しが紅葉をきらめかせ、適度に低い秋の空気の冷たさと、木々と土が与えてくれる空気の清涼さに、うっとり。
さて、プチ紅葉狩りを楽しんだあと、館内に入る。
根津美術館の館内のトーンは、色数が抑えられた上品で渋い雰囲気。
そのとき、着物姿の来館者が目に入った。
茶系の色無地に、黒帯、という地味な着物姿。
とたんに、私の着物姿、もしチェックされたら、と不安がよぎった。
紅葉狩りの目的は果たしたことだし、もう出よう、と根津美術館を退去する。
銀杏狩りの地、外苑前銀杏並木に、向かう途中、リサイクル着物店「ちぇらうなぼるた」に寄り道をしてみる。
ちぇらうなぼるたでは、半幅帯を見てみたかったのだが、半幅帯が置いてあるスペースが、着付けルーム内にあり、本日は着付け中で、ルーム内に入ることができないとのこと。
もしかして着付けが終わるかも、としばらく待っていたら、着物姿の来店客が。
不思議なことに、その人も、ベージュの色無地に黒帯、という根津美術館で見かけた人と似た系統の装いだった。
着付けが終わりそうもなかったので、半幅帯を見せてもらうのはあきらめて、ちぇらうなぼるたを出る。
徒歩で外苑前の銀杏並木に到着すると、こちらも、期待通り、元気な黄色に色づいた銀杏が、晴れた陽光にきらめいている。根津美術館の庭園とちがってこちらは大変な人ごみだったので、静寂を求めるのは無理だったが、じゅうぶん浮き浮きしながら並木の下を歩く。
すると、そこで、また、すぐ前を着物姿の女性が歩いてるのに気が付いた。
スモーキーなピンクの色無地に、黒帯という装いである。
なんだか、今日見かける着物姿の女性は、コーデが似ている。
地味な色合いの無地に黒帯、ってもしかして「茶室」的コーデだろうか・・・。
いや、私は初心者だからさっぱりその知識に自信はないんだけど。
女性ファッション誌で、以前、「丸の内コーデ」対「青山コーデ」なんていう記事を見かけた。
勤務地でファッションの傾向が同じトーンになるものなのだろうか?と思ったけれど。
もしかして着物にも、そういったものがあるのかもしれない。
着物における「青山コーデ」は「茶室コーデ」が主流だったりして。
私の着物コーデは、決して派手ではないと思うけれど、「茶室コーデ」に比べれば、浮く。
でも今のところ、茶室コーデには惹かれないし、絹の着物を身につける勇気さえ、ないしね。
ただ。
根津美術館の館内。
あの空間は明らかに、「茶室コーデ」な着物こそ、映える。
素人ながら、そんな感想が芽生えた。
私が、根津美術館内で、茶室コーデな来館者を見たとたん、その場を立ち去りたくなったのは、自分が今、この空間で映えるコーデをしていない、と無意識に気が付いたからなのかもしれない。
とりあえず、紅葉と銀杏の下では、コーデ違い!という思いに襲われることはなかった。
自然の空間の受容範囲は、広くて、優しい。
人工の空間は、コーデを選ぶ。
紅葉と銀杏以外にも、何かを狩ったような気がした日であった。