読書階級

ニコラス・G・カー著「ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること」を読了。
以下、備忘録。
■より多くの情報は、より少ない思考活動につながりうる。
「書物とちがって、ウェブ上では、文字だけではなく、リンク、画像、音、動画なども盛り込める。これは内容把握を深め、学習を強化すると多くの教育者は考えたが、研究によりそれは反証されつつある。
マルチメディアによって生じる注意分割は、認知能力を酷使し、学習能力を減少させ、理解力を弱めている。精神に思考材料を与えるということに関して言えば、より多くの情報は、より少ない思考活動につながりうるのだ。」
→書物は文字情報への一点集中となるけれど、ウェブはそうならない。
ウェブのほうが、処理しなくてはならない情報が多いため、その分、脳のエネルギーが思考活動に充当する分から奪われるということかなあ。
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■脳の回路は、新しい回路が作られると、既存の回路を捨てて、再配線され、それを維持する。
「いったん脳内に新しい回路が形成されると、われわれはそれを活性化しつづけたいと願う。」
→たとえば、もしも「ウェブで読む」スタイルのほうが多くなってしまうと、脳内にそのスタイルに応じた回路が形成され、脳は、その回路をどんどん使うことを望む。
「かたや使用されない回路は取り除かれていく」
→すると書物を読む、という従来の読書のスタイルに対応した、脳に既に形成されていた回路は、取り除かれていく。
「われわれの神経ループは輪ゴムのように元に戻ったりはしない。変化したあとの状態にしがみつく。
そして新しい状態は必ず望ましい状態であると保障してくれるものは何もない。
悪しき習慣も、良い習慣と同じくらい容易に、ニューロンにしみつきうる。」
→新しく配線された脳の回路は、なかなか崩れない。それが望ましくない回路であっても。
「知的スキルの活用をやめた場合、それらは単に忘れられるのではない。
そうしたスキルのために使われていた脳の部位が、代わりに実践しているスキルによって乗っ取られてしまうのである。…どのメディアも何らかの認知スキルを発達させるが、一方で別の認知スキルを犠牲にしている。
われわれの脳の可能性からすれば、オンラインでの習慣…スキャニング、スキミングマルチタスクに使われる神経回路が拡張したり強化されたりすれば、一方で、持続的集中を伴う深い読みや深い思考に使われる回路は、弱まったり浸食されたりするだろうと推測できる。」
→読書するスキル脳が、WEB読みスキル脳に乗っ取られるってこと。
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■あらゆる道具は、可能性とともに限界をも課す。
「あらゆる道具は、可能性を開くとともに、限界をも課すものだ。使えば使うほど、われわれはその道具の形式と機能に合わせて自分を仕立て直していくことになる。…どの部分であれ、道具によって「増幅」されたわれわれの身体部分は、最終的にはその道具によって「鈍く」されるのだ」
→この場合、道具=ネットに限らず、思い当たることはたくさんあるなー。
著者はこれに関する現象のひとつとして、ネットに情報が格納されているゆえに、人々が記憶することをしなくなった、と述べている。それにつながるのが、次のキーセンテンス。
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■文化とは、情報の総和ではない。
「文化とは、グーグルの言う「世界中の情報」の単なる総和ではない。…記憶をアウトソーシングすれば文化は衰退してしまう。…文化はわれわれのシナプス内部で維持される。外部のデータバンクに記憶を預けることは、自己の深みと特殊性を脅かすだけではない。われわれの共有する文化と特殊性をも脅かすのだ」
→もしも、アメリカ合衆国の創立年を1783年とするならば、まだできてから230年しか経っていない幼い国なのだ。
ヨーロッパ、アジアの国々の「文化」とは、とらえ方が違うか、そもそもまだ文化を理解できるだけの時間や、歴史が経過していないか、なのかも。
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■やがて読書は、少数集団、読書階級によってのみ、なされることになる
「近年の読書習慣の変化が示唆するのは「大衆による読書の時代」というものが、われわれの精神史において短期間だけ生じた「例外」だということである。われわれが現在目にしているのは、読書がかつての社会集団へと立ち戻っていく姿である。読書階級と呼ばれることになるだろう自己維持的な少数集団へと。」
→…読書階級…。なんだか素敵な名前の階級だ…。SF小説のタイトルになりそうだ…。
「まだ答えが出ていないのは、その読書階級がますます希少なものとなっていく文化資本の形式と結びついた、権力と威信を有することになるのか、それとも「ますます秘教的になっていく趣味」を実践する変人と見なされることになるのかということだ。」
→…前者の場合、後者の場合で、それぞれちがった世界の物語ができそうではある…。
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■備忘録
→「備忘録」について、言及するセンテンスがあり。
「覚えておきたい文章を書きとめるノートを持つよう読者に勧めるエラスムスのアドヴァイスは、広く、かつ熱狂的に支持された。「備忘録」、コモンプレイス・ブック、と呼ばれるこのノートはルネサンスの学校教育で定番となった。」
→というわけで、私も備忘録スタイルで、この記事を書いてみた。