映画:アナと雪の女王

おとぎ話のヒロインは、たいてい無力だ。
シンデレラも、白雪姫も、眠り姫も、姫自身は無力であり、異形のものの力(動物や七人の小人)、魔法の力(魔女)、男たちの力(猟師や王子)に助けられる。
ま、最大にして最終的な救済者は、王子なのであるが。
ディズニーが、おとぎ話を下敷きにした作品を現代に生み出す以上、そこには何らかの新しさが要る。
新しさとは、古いものを殺すことも含む。
アナと雪の女王」で殺されたものは、王子である。
冒頭に早々と登場する、12人の兄を持つ他国の王子。
「13人目」の彼は、ユダ的存在を暗喩し、「裏切る」宿命を背負っている。
ヒロインの絶対的救済者である王子は、この映画には不在だ。
無力なヒロイン、アナをサポートする異形のもの(オラフ、トナカイ、トロール)、男たち(氷屋の青年や冬物ショップの主人まで)は登場すれども、アナを最終的に救済するのは、彼女自身の情、心が要なのである。
アナ以上に新しいヒロイン像が、エルサだ。
なんたってまずエルサは、無力どころか、強大な力を生まれながらに手にしているヒロイン。
美しく、崇高な力を持つエルサは、人間とはレベルが違うかぐや姫のような超越した存在で、まさに生まれながらの女王なのであるが、アナとは反対に、男たちによって、その力を封印され(父親によって)、存在の危機にさらされ(他国の王子や使者たちによって)…。
エルサがどのように、力を解放し、力をコントロールするすべを発見したかというと、他者の助けではなく、自己の内省の力なのである。(愛の対象である妹アナの存在の助けもあったとは思うが)
王国に、王子は要らない、だって女王がいるから。
おとぎ話に王子は要らない、ボーイフレンドがいれば十分。
おとぎ話の王子は死んだ。
次に殺されるべきものは何だろう?
それは「若い娘に嫉妬する悪い母親的キャラ」かもしれない。
白雪姫の継母、シンデレラの姉たちと継母、眠り姫の魔女、ラプンツェルの魔女。
浅はかで妙に定型化した年増女キャラたち。
本当は、もっと複雑なキャラなのかも。
おとぎ話の年増女キャラが再造形される日は、近いのではないだろうか。美魔女ブームもあったことだし。