映画:ブルージャスミン その1

ヒロインの名前は、ジャスミン
映画を見ながら、こういう人、いるいる!と思った。
「いるいる!」感を引き起こすだけで、観客の心を掴んだも等しい。
何作も、ニューヨークの成金セレブを描いてきたウディ・アレン監督・脚本作。
今作のヒロイン、ジャスミンも、彼が現実に目にしてきた女性たちが、材料になっているに違いない、と思う。
私は成金セレブ社会とは無縁の人間だが、ヒロインのジャスミンから、何人か自分の知り合いを連想してしまったあたり、ジャスミンは、適度にうるおった資本主義国で、普遍的、国際的に通用する「いるいる」キャラにちがいない。
中でも、ひとりの友人のことを強く思い出してしまった。
自分の周囲の中で、あ、この人ジャスミンだったんだ!ということが露になりやすいのは、まずは「就活」時ではないかと思う。
「職種や仕事内容よりも、新卒女性にとって、今、一番エリート・一流と評価される会社・または職」を基準に就職先を選ぶ友人が何人も現れたのに驚いたから。
今から二十年以上前のことになるが、当時、文系女子大学生にとってエリートとされたのは、都銀の総合職、外資コンサルティングファームだった。
どちらも文学部の私には無縁の職種だが、法学部のある友人が、都銀の総合職をメインに就活をし、大手通信、電気メーカー、銀行数社など数々の一流企業から内定をとり、その中から政府系金融機関の女性総合職を選んだのだった。
住居は会社借上の市ヶ谷のマンション、と聞き、まったく違う業界と待遇の会社に就職し、初任給のほぼ五割を占める月額家賃の捻出に苦しんでいた私にとっては、別世界だな〜と吐息した。
しかし、ちょうど一年後、彼女は勤務先を退職する。
すぐに再就職活動をするのかと思いきや、彼女は学校に行く、と言った。
公認会計士試験に合格して、会計士になってから会計事務所に就職するから、まずは試験合格のための専門学校へ行く、もう学費は払って申し込んだ、とのこと。
そこから、半年ほど経ったころ。
彼女から電話が来た。
内容は、試験勉強をしようと思うのだが、昼間に眠気が襲ってきて勉強をすることができず、夜に目が冴えてしまう、勉強をするにはどうすればいいかと。
当時、仕事が超激務で、精神も身体も疲労していた私は、なんてお気楽な悩みなんだ、と内心で怒りつつ、自宅で勉強はしないで、学校の自習室とか図書館とかに行けば?最初は眠くても、そのうち眠くなくなるかもよ、と伝えた。
そのついでに、あんた甘いよ…的な内容を暗に伝えた。
彼女は敏感なタイプだったので、「暗に」が「明らかに」伝わり、彼女のプライドを傷つけたらしく、以後、二度と私に電話をかけてくることはなく、つまり連絡が途絶えたのだった。
彼女から私への連絡はいっさいなかったが、他の友人とはそうではないらしく、共通の友人と会った折に、彼女の話題が出た。
それは「先日彼女から、「名前を変えました」って葉書が来たんだよ」というもの。
ふうん、戸籍まで変えたのか、周囲に対してこう呼んでくれ、と通称だけ変えたのかどっちだろうねえ、何か変えたい理由があったのかもね、という話でその場は終わった。
そして、そこからたしか、12年後。
突然、彼女から手紙が来た。
つづく。