映画:ブルージャスミン その2

前記事からのつづき。
12年ぶりにふいに舞い込んだ、彼女からの手紙の内容は…。
十年ほど前に、うつ病パニック障害を発症し、両親に故郷に連れ戻された。
今も通院投薬中である。働けなければ、結婚すればいいと、地元と東京の結婚相談所に登録したが、子供が生めない身体であることがわかり、登録を断られてしまった。そこで地元で就職活動中だが、このあたりは田舎だから自分の学歴がかえってあだとなり、アルバイト採用さえ、ままならない。思い切って東京に出て職を探そうかと迷っている。ついては、あなたの勤務先で中途採用などの予定はないか?
手紙を読んだ私の感想は「まだ病んでいるな…」というものだった。
手紙の内容を支配していたのは、周囲に対する怨念だった。
私はうつ病に詳しくないが、たぶん「周囲に対する怨念」は、病状のひとつではないかと思う。
試験勉強をリタイアして故郷に戻ったのは、両親に連れ戻「された」から→つまり両親のせい、地元で就職できないのは、田舎である地元側が悪い、結婚相談所に登録できない理由はこどもを生めない身体であるせい、その身体をつくったのは当然、両親。他にも、私が病気になったのは妹のせいだ、だから妹の結婚式にも出席しなかった、一生妹とは思わない、と記されていた。
しかし、彼女の妹ってたしか年が7歳くらい離れていて、彼女が病気を発症したのが大学卒業時から二、三年後だとすると、当時妹は高校生にすぎないはずだ。高校生の妹がそれほどの破壊力を持つものだろうか?
公認会計士試験は超難関試験のはずだけれど、そもそも彼女の学生時代の興味の方向を思うと、別に金融の世界に強い情熱と興味を持っていたわけではなく、その当時のエリート職種だったから、という理由で銀行総合職を望んだとしか思えなかった。
法学部に入学する前は実は医学部志望だった、とも言っていたし。
法学部と医学部は専攻内容、卒業後の職種にほぼ脈絡がない。ふたつに共通する基準は「その当時の世間の評価でエリート専攻・エリート職とされるもの」である。
だから試験勉強に挫折したのも、病気になったのも、故郷に連れ戻した両親のせいでも妹のせいでもなく、自分の選択のせいだと思うよ…。
とはいえ、自宅にこもるしかない状態で、両親の顔を見るのもいやだからご飯は自室でとる、という彼女の状況に、とにかく返信をしなくちゃ!と思った。
そもそも、最後の電話となった「夜に目が冴え、昼に眠くなる」という悩みも、たぶんうつ病に起因した症状だったのだろうから。
そこで、彼女の「ありかた」についてはいっさいどうこうコメントはせず、「私の勤務先の社員の中途採用の予定は、業績悪化でまるで予定がないが、時間給の専門職は、欠員補充でオールシーズン行われている、ただ、住宅費を含めて東京で生活できるほどの収入を得られる職ではないので、彼女の地元にも事務所があるから、その気があるなら、事務所の連絡先を伝える、募集予定がないか問い合わせてみては」と返信した。
まもなく彼女から返信が来た。
即座に返信をくれたことの感謝があり、しかし私が提案する時間給の専門職には興味がもてない、という返事だった。
新卒時の、彼女の職業の選び方の基準が変わっていないとすれば、当然の答えだな、と思った。
それから五年ほど、年賀状のやりとりだけが続くが、六年後から、その年賀状も来なくなった。
年賀状が来なくなったのは、私の住所が変わった翌年からである。
つづく。