金と権力

小○○さんに関する一連の出来事が話題になり続けたのは、人々の、さまざまな憶測を刺激したからではないかと思う。
私も、そうだった。
いわば「憶測のネタ」だった。
先日、私は友人に聞いてみた。
お気に入りの女性に対して、金か権力のどちらかを使う男性、どっちのほうが好ましいと思うか?
私も友人も答えは一致。
権力よりも、金を使う男のほうが(まだ)好ましい。
権力を使ったプレゼントって、自分のポケットからお金を出さずに済むという点で、何だかケチな手段という印象がある。
そのうえ、権力を発揮するには、他者を巻き込むことが多いから、他の人にも迷惑をかける場合があるし。
私自身の会社員生活でも、男性上司による女性社員の抜擢人事や特別扱いは、普通に目にしてきた。
ある管理職に、業者さんが、接待の席を設けますので、もうひとりお連れになって二名でどうぞ、というシチュエーションに、業者さんとしては今後仕事上役立つ見込みのあるナンバー2的存在の人を期待しているはずなのに、その人がここぞとばかりに伴っていったのは、お気に入りの、一番入社年数の浅い女性社員ひとり、というシーンも。
それって、自分のポケットからお金は一銭も出すことなく、自分も彼女も饗応に預かることができ、同時に接待を受けられるだけの自分の権力も彼女にアピールできる、ってことだものね。
業者さんは、男から女への権力アピールとプレゼントに利用され、ひとりぶんの接待費を無駄にしたということ。
小○○さんもそのような立場の女性の類だったのだろうか・・・と私は意地悪く憶測していた。
困ったことに、私には「研究者」というものに対する偏見も、できちゃっている。
学生時代は別にして、社会人になって、私の会社生活で、実際に接触のあった「研究者」というのは、二名にすぎなくて、たった二名を全研究職の代表ととらえるのは間違っている、と私の中の理性は訴えているのだけど。
その二名の研究者って、理系ではなく文系だけれど、どちらもある意味ケチだったのだ。
一人は、会社でお願いしている仕事とは全く関係のない、自分自身の研究の発表会や会議に会社の会議室を毎月(休日に)提供することを要求。大学に部屋を持てなかったので、会社内に書斎代わりの机と電話を年中用意しておくことを要求。
社内にいるときは、秘書的な役割を担ってくれる(女性)社員をひとり提供することも要求。季刊の、個人の研究論文の発表冊子の印刷発行も要求。個人の名刺の作成も要求。文房具も要求。今度小学校に講演に行くので、こどもが喜ぶような商品が社内にあるだろうから、それらをたくさんもらいたい、と要求。
...そういう状況が約25年ほど続いた後、当時の社長の決断でやっと縁切りとなったのだった。
自分の研究のための費用を、研究とは何の関係もない会社にどんどん要求する厚顔ぶりには呆然とするが、研究者にとって自分の研究は崇高で価値のあるものであって、その研究の遂行のために民間企業がお金を出すのは、おかしい発想じゃないらしい。自分のポケットからは、いっさいお金を出さず、民間企業に設備の提供やお金を出させる権力を持つ自分、を研究仲間にアピールできることも気に入っていたと思われる。
そして、もう1名の研究者は。
前者の研究者のようなことはいっさい、しなかった。
仕事とは関係のない自分の研究に使うためのお金や設備や人員の要求などいっさいしない上に、その後の社のロングセラー商品の礎を築いてくれた、立派な先生だった。
商品が完成したところで、自分の一人息子(東大院卒・就職経験のない三十代)を社員として雇用してくれ、と要求したこと以外は。
父と同居していた息子は、入社後、毎月の給与からきちんと生活費を提供していっただろう。
前者の研究者も後者の研究者も、自分のポケットからお金は出さず(そもそもポケットにお金がなかったかもしれないが)、民間企業(他者)から、権力を使ってお金やサービスを提供させるという点では、どっちもどっちかもしれない。
ということで、このたった二名の研究者をモトに、私の偏見は作られてしまったのだった。
研究者って、どちらかといえばケチじゃないか?という偏見が。
ケチな人が、気に入った異性にプレゼントを送るときに、自分のポケットからお金は絶対出さない、他者のポケットから出させるはずだ。
他者のポケットを開ける力を持つもの、それは「権力」である。
そこで私はまたもや、理系研究者集団の組織で、権力者が社内の異性に何かプレゼントをしたければ、金より権力を使うよね、と意地悪く、憶測をした。
憶測は、醜い行為にもなりうるけれど、人間として、どちらかといえば、どうしても、楽しい。
しかし、考えてみれば、アートも文学も映画も「憶測のネタ」として楽しめるものである。
「憶測のネタ度」が上がるほど、濃くなるほど、魅力が増すともいっていい。
憶測を楽しみたければ、憶測のネタを欲するのなら、マスコミが提供する手近な素材ではなく、努力して別のものを探す手間をかけるべきかもしれない。
自分の中の、意地悪なもの、憶測が、染み出していくのを自覚した、小○○さんの話題だった。