机上起業

ICレコーダーを買う用事ができて、商品を検索してみた。
売れ筋商品として現れたのは、ソ○ー、○ナソニック、○リンパスの三メーカー。
即座に私は、○リンパスにしよう、と決めた。
まだ商品は選んでいないけど、メーカーは選んだ。
私にこの選択をさせたのは、一週間前に読んだ「追い出し部屋」のルポの本のせい。
ソ○ー、○ナソニックは、まさに、追い出し部屋ルポのメインの取材対象だった。
会社が、人員削減策をとるときに、まずターゲットとなった人員を特定の部署、室内に集め、自己都合退職に追い込む。
集められた部署、室名をいわゆる「追い出し部屋」という。
かつてはこの「追い出し部屋」って、閑職状態に追い込んで放置する、というイメージだったが、ソ○ー、○ナソニックなどは、そこからさらに追い込みにかかる。
毎週、行った業務内容と、次の就職先を探すためにどんな行動をしたかなどを問い詰める面接などで、ターゲットを精神的に追い込んでいく。
それらの「追い込み」を請け負うプロや「追い込み術」の研修マニュアルまで作られているとか。
そんなルポを読んじゃったあとだから、自然に、そのメーカーの商品には手が伸びなくなってしまう。
だって、同様の商品は他のメーカーからも手が入るし、1円でも価格の安さを追求する買い手ならともかく、数百円の差なら、他のメーカーにするよ、私。
たまたま私が知った情報の中にこの2社があった、というだけで、○リンパスの実態がどうかは知らない。
ただ、企業の経営が危なくなると、その対処策に決まって「人員削減」に頼ることを繰り返していくと、追い込み術の技術には長けていくが、メーカーそのものの技術は次第に衰えていく、という指摘もあった。
その指摘は信じられる気がする。だから今回私が買うのは○リンパス。
そういえば以前、○ニクロが社内公用語を英語にしたとき、それを理由に、いっさい○ニクロの商品を買わなくなった友人がいる。
友人自身は、英文学専攻で英語圏の小説を原書で読むような人なのに、なぜそこまで怒ったのか、その場でつっこまなかった。
今度会ったら怒りの理由をつっこんで聞いてみるようにしよう。・・・というように、あるメーカーの商品を買わなくなるって、そのメーカーの人格や行動みたいな、企業の「在り方」そのものを嫌いになるという場合もあるのね、と気が付く。
二日間くらい、追い出し部屋ルポの本の影響で暗くなっていたのだが、ふと別の考えが浮かんだ。
追い出し部屋に入れられた社員は、必ずしも無能というわけでも問題があるというわけでもなく、削減人員数達成のために上から選ばれた人たち、とあった。
他の就職先も探しているが、なかなか見つからない、と嘆く人、精神的に追い込まれていく人たちの記事。
そうだよねえ、大変だよねえ、と思っていて、ふと。
こんなに身体的にも精神的にもおかしくなるくらいにつらい状態に追い込まれていて、ほかに雇用先も見つからなくて...じゃ、自分で仕事を開業しちゃお、という発想には、ならないのか。
「住宅ローンやこどもの学費があるから、自分から退職するわけにはいかない」と嘆く人の記述は多々あった。
もちろん、来月の給与が入らないと即、家計のすべてが頓挫する状態なら無理かもしれない。
給与から生活費を引いた残り目いっぱいの、借金を負うべきではない(つまり貯金もゼロ)ということかもしれないし。
つらい目にあっている多数の人たちの記事の中には、不思議なことに、自分で起業しちゃお、という人の記事はひとつもなかった。
これってどういうことなんだろう?
追い出し部屋に入れられた人たちの年代は、四十代から五十代が主。
大企業でそこまでの年数を経ていくと、じゃ、自分で開業しちゃうか、という発想自体、もしかしてなくなるのか。
私自身は、自営業の家庭で生まれ育って、自営業の舞台裏を知っているのが反面的に作用して、起業の憧れや意気込みはまるでない人間で、働くスペースを提供してくれて、月額で固定の給与がもらえるなんて会社員っていいなあ、と憧れていたこどもなのだが。事実、今会社員をやっているのだが。
ただ、父が会社員、母が専業主婦、という家庭で生まれ育った友人が言うには、知らないから怖くて起業の勇気がない、という意見。
え〜、逆だよ、知っているから、やらないんじゃないの?知らないから、恐いもの知らずでできちゃうんじゃないの?と私は問い返したっけ。
しかし。
もし自分が起業するなら、何を、どんなふうに?とシミュレーションしていくだけで、自分に向き合うことや、考えることや調査することがいっぱいで、追い出し部屋に入れられちゃうような状況に瀕したときの、安全弁になり、保険になるのかもしれない、と思ったりする。実際に起業することがなくても。
中学生のころ、「机上旅行クラブ」という謎のクラブが存在していた(たぶん字面から想像する通りの内容。レジャーとして海外旅行に行く一般の人なんて希少な時代だったの)。
だから、そう、「机上起業クラブ」みたいな感じで。