かけがえのない・・・

村上春樹による、読者からの質問の回答をセレクトした新刊「村上さんのところ」を読んで。(電子版には、全回答が収録)
村上春樹は、プロのファッションモデルのような人かもしれない・・・と思う。
プロのモデルは、自分の身体が商品だから、ふだんの生活は、身体に負担をかけないよう、ノーメークに近い状態で、ヒールもはかず、不摂生もせず、必要以上に身体を人前にさらさない、と聞く。
本番の舞台で、濃いメークにヒール他、身体にどんな負担をかけても、商品としての力を最大限に発揮するために。
村上春樹も、「小説を書く自分」という商品を、いかにして守り、磨きあげていくかを、自分に課している人だ。
村上さんのところ」内の回答からも、そのようすが、ところどころ、伺える。
質問を寄せているのは、世界中の村上ファン、ハルキストたち。
村上春樹はファンの呼称として「村上主義者」という名を望んでいるけれど、語感のひびきとか雰囲気とか考えれば、「ハルキスト」のほうが似合うでしょ。呼称って、自分ではなく周囲が選んだもののほうが、けっこうふさわしかったりする。「E電」ではなく「JR」の呼称が残ったように。)
ハルキストは、村上春樹が回答してくれるだけで、大喜びだ。
質問に対する、実用的な解決力や成果を求めているわけではない。
村上春樹も、そのような答え方はしていない。
(質問や悩みに対する、成果を求める回答を望むなら、岡田斗司夫のほうが適任。)
回答から、「村上春樹のあり方」みたいなものが見えてきて、それが面白い。
村上春樹が、自分に負担を課すのは、小説を書くことに関して、が中心。
ジャンルの違うもの、ちがう書き方に、意識的に挑戦しつづける。
一方で、私生活や、身体や、人間関係などへの負担は、できるかぎり避けているのだと思う。
かけがえのないもの、かけがえのない自分、のため。
「かけがえのない自分」という意識は、虚栄ではなくて。
この意識、持っていたほうがいいな、と思う今日このごろ。