やるべきことをみんなで

今年の夏のこと。
バスに乗って、車窓からぼーっと外を見ていたら。
突如、黒々と書かれた言葉が目の前を通り過ぎた。
「やるべきことをやる! みんなでやる!」
という言葉が。
ええっ、何?今の?なに?
その言葉は、以前あった建物が取り壊され、更地になった跡地に、たぶんこれから新築を請け負う建設業者の一時的な事務所っぽい、二階建てのプレハブの建物が一角に立てられて、その屋根の上に、屋根のヨコの長さとほぼ等しいくらいに、おっきな看板がとりつけられ、そこに太くて黒くておっきな文字で、書かれていたのだった。とてもとても必死な感じがした。
更地は、人の身長より高い塀でぐるりと取り囲まれていた。
だから通常は、塀に阻まれて見えない。
バスの座席の高さからじゃないと、この看板、この言葉、見ることはできない。
これから建設に携わる人たちは、仕事をする間ずっと、この言葉が何度も視界に入ることになる。
平凡に「安全第一」などの言葉じゃなくて。(あ、それはヘルメットについているんだっけ?しかし、それはそれでその言葉も目に入るはずだから効果あるのか。…なんか、F1レーサーの着装上の広告と発想が同じでは?)
それにしても、看板にどんな言葉をのっけるかは、ごまんと選択肢があるわけで。
建設業界に携わる方々の経験をふまえた、選び抜かれた言葉がこれなんだなあ、きっと。
「やるべきことをやる!」だけじゃだめで、そのあとに「みんなでやる!」と続けることが絶対必要なんだ。
つい先週のこと。
その看板を頭上にのっけたプレハブがある更地には、44階建の高層マンションが建設されることを知った。
大仕事だ。
危険度も大きいはず。
建設現場のみんながまとまらないと出来ないはず。行動の上でも気持ちの上でも。
部外者から見れば、滑稽に見えるかもしれない、ハデで必死でボリューミーで、かっこつけもない、言葉の展示の仕方は。
部内者の世界では、仕事上の、ある生命線的なラインを突破できるかどうかというときに、効いてくるからじゃないか。
建設業界は、ちょうど今、悪いニュースが話題になっているけれど。
業界の全部が悪いわけじゃないです、きっと。