羽つき

「羽つき」と「羽なし」では、当然、「羽つき」のほうが高い。
(女性はすぐ、なんのことかわかるよね?)
私は、社会人になるまで、ずうっと、「羽なし」だった。
社会人になって一年過ぎたとき、「羽つき」に変わった。
きっかけは、会社でそばにいた人。
その人から、一個もらう事態になったとき。
「はい。羽つきよ」
と、その人は差し出した。
音声になったとき、そのことばがすごく魅力的にひびいた。
そうか、羽がついているんだ・・・。
「羽つき」を使ったのは実は初めてだった。
「羽なし」よりずっと、ベンリでアンシンだった。
それまで、わずかな差でも、高いよりは安いほうを選ぼう、という考えにずっと縛られていた。
学生のときは、お金がないのがあたりまえだから、その考えはふさわしいものだったかもしれない。
でも、いちばん「羽つき」が必要な時期でもあったのだ。(女性は、わかるね?)
500円のストッキングに初めて手を伸ばしたのも、その人がきっかけだった。
それまで、二足で400円レベルのストッキングにしか手を出さなかった。
あるとき破れる事態になって、その人が新品のストッキングをくれた。
一足で500円のストッキングは、ずうっと丈夫で、たのもしかった。
それからは、じぶんのストッキング基準価格は、一足500円にあがった。
日常品の、数百円多い、贅沢。それをじぶんに許さなかった。
でも、日常品に、数百円多い、贅沢をあたえてあげると、数百円以上に、ラクに、しあわせになることを知った。
「羽つき」とは、よく名づけたもの。
羽をつけてみようよ。じぶんに、羽を許していいよ。
「はい。羽つきよ」
という言葉は、あたらしい扉だった。羽なしから羽つきになる扉。
べつに、羽代には、数万円や数十万円が必要なわけじゃない。
ほんの数百円でも、数十円でも、羽は売っている。