カシュクールとラップ

最初にイメージコンサルティングを受けたとき、先生から、グレースタイプに似合うのはシャツワンピースと教わった。
ただし、カジュアルではなくコンサバな感じのデザインのものだ。
去年の秋に、先生に再度、ワンピースについて質問してみた。
シャツワンピース以外に、お勧めのデザインは?
答えは、カシュクールワンピースだった。
カシュクールワンピースと聞いて、私の脳裏に浮かんだイメージは、ジャージー素材で、よく言えば華やか、悪く言えば派手柄で、ボディコンシャスで、数年前の「STORY」内で、ときどき登場する、成熟した女らしさを前面にアピールする(中年)女性が好んで着るもの、だった。
ダイアン・フォン・ファステンバーグやイッサロンドンやマテリアやシトラスノーツで見かけるあの??
グラマラスで華やかな人向きのデザインで、とても自分に似合うとは思えない。
先生は、ポイントとして、ワンピースのウエストの設定位置が、ジャストウエストであることと教えてくれた。
言われてみれば、店頭で見かけるのは、ハイウエスト気味のカシュクールワンピのほうが多いような気がする。
カシュクールと言えば、オードリー・ヘップバーンの着こなしに、男物のシャツを、カシュクールに巻いた着方があった。
今、現代で売られている大きめにゆるっと交差させて、インナーにキャミソールが必須の「カシュクールにも着れるシャツ」とはちがう。
襟開きの部分が、着物みたいに、極小のVネック型となる、きっちり交差させた着方だ。
そうやって着ると、シャツのシルエットが、自分の身体に食い込みもせず、逸脱もせず、つかずはなれずの状態になるんだよなあ。
グレースタイプに似合うカシュクールのポイントって、そのあたりにあるような気がする。
ダイアン・フォン・ファステンバーグや、イッサ・ロンドンのワンピースの、モデルが着た状態での写真をまじまじ観察する。
欧米ブランドだけあって、襟開きが、深すぎる。
欧米文化では、このくらいの胸開き、スタンダードなんだろうけれど。
日本人が着る場合、結局、キャミやタンクトップをインナーに着るのだろう。
しかし、そうなると、襟開きのかたちは、カシュクールじゃなくて、スクエアネック同然になるのでは。
カシュクールワンピには、カシュクールの部分を、ラップ(巻きつけ)して着るのではなく、縫い閉じてあって、プルオーバーみたいに、頭からかぶって着るタイプのものも多いみたいだ。
エストに巻くリボン紐を通す穴がついている構造のワンピが、ラップ型にしてカシュクール、ってことだろう。
でも、ラップ型のデザインにしても、先にあげた2つの欧米系ブランドは、胸元の開きが深すぎる。
浴衣だって、同じ構造だと思うけれど、この胸元の開きスペースの差はどこから?
しばらく考えて、通し穴の位置じゃないか、と気がついた。
左の身頃についているウエストリボン紐を、右の身頃についている通し穴に向かって、通す。
その通し穴の位置が、奥側にあればあるほど、「巻き」が深くなって、襟開きも小さくなるはずだ。
襟開きが深くなっちゃうってことは、その通し穴の位置がかなり手前にあって、「巻き」が浅いってことでは。
つまり、胸元が深く開くことを最初から計算して、通し穴の位置が設定されているのでは。
求めるべきは、通し穴の位置が深めのカシュクールワンピだ。
なかなか出逢わなそうだけど。
しかし、4月1日の今、私はカシュクールワンピを、二枚手にいれているのだった。(嘘じゃないよ)
二枚とも、ネット検索ではなく、リアル店舗をぶらぶら歩いているときの、偶然に出会ったもの。
一枚は、IRIE WASHのネイビーのワンピース。
もう一枚は、ドゥーズイエムクラスの、細めのピッチのボーダー柄のワンピース。
二点とも、ワンピを探し歩いて見つけたわけではなくて、遭遇した感じ。
後者のワンピースは、本当は私にはNGのボーダー柄だったのだが、細めのピッチだと大人っぽくなるのと、黒のボーダー柄だったので、パーソナルカラーが冬の私にはジャストな色であったのと、カシュクールワンピースとしてのかたちがとても気に入ってしまったからだった。
IRIE WASHは、光沢感がある生地で、フォーマルな印象が強いので、休日用に着る目論見だが、ドゥーズイエムクラスのワンピは、カジュアルな印象で、しわにならない素材なので、これなら仕事着にできる!と判断した。
思えば、グレースタイプにお勧めのカシュクールワンピのポイントは、ジャストウエストのほかに、着物のような襟開き、着物のようなラップ型、だったんだなあ。
昨夜、ふと思い立って、ヒッチコックの「裏窓」のDVDを自宅で流し見ていた。
二度くらい見ているはずなんだけど、イディスヘッドが手がけたグレース・ケリーの衣装の中に、新たな発見が。
ノーカラーに近い、ほんの少しだけスタンドカラーなメロン色のジャケットに、同じくメロン色のロングタイトスカートをエレガントに着こなしたグレースケリーの、そのインナーの襟元は、着物並みの極小Vネック型の、カシュクールだった。
グレースケリーが、ジャケットを脱ぐと、そのカシュクールのインナーは、胸開きは極小ながら、ノースリーブにして、大胆に背中が開いたデザインであることがわかるのだが。