ないと、ひろがる

仕事で、帳票のフォーマットを作成したり、変更したり、という状況に何度か遭遇した。
帳票ひとつの使い方、用途は、人によってさまざま。
この項目は邪魔だからなくしてほしい、という人もいれば、逆に、ないと困るという人もいたり。
最終的に、全員の要望を受け止められる方法は、たったひとつあった。
それは、「何もない」という項目をつくること。
たとえば、その項目の最多の選択肢を表示したほうが、親切で行き届いたフォーマットかもしれない。
でも、その選択肢から外れる項目が、必ず出る。その場合、どうすればいいか。
すべてに対応していたら、表示項目が何十個と増え、そのほとんどは、選択されない。
でも、(     )をひとつ、加えておく。
最小限に表示された、選択項目以外のものが生じたら、(     )に書く。
(     )、つまり、空欄は、すべてを受け入れる。
何もない状態が、最も受け入れゾーンが広い状態なのである。
NHKの「スーパープレゼンテーション」で、両足が義足の女性スプリンターが登場したとき、彼女は、脚がないという状態を、どんな脚でも、身につけることができるという状態に、変えてしまった人だ、と思った。
彼女はモデルとしても活動中。
デザイナーが、彼女のためにつくった、美しいツタ模様が彫られた義足をつけてショーに登場したり、豹の脚がデザインされた義足をつけて、豹と人間が同化したような美を見せる。
人体の一部である脚をデザインすることが、彼女に対しては可能なのだ。
それが、デザイナーの創作意欲とイマジネーションをどれだけ拡げたことだろう。
日本製キャラクターの中で、キティが多数の国で受け入れられているのも、きっと同じ。
キティって、シンプルなデザインだと思う。
最小限な線におさえて、「何もないゾーン」がつくってあるデザインのキャラ。
だからこそ、キティに対する、加工や、アレンジや、デザインの、受け入れゾーンが広がる。
キティは、デザイン心をそそる、魅力的なリソースとなる。
ファッションもそう。
「何もないゾーン」をつくっておく。シンプルにしておく。
そういうファッションは、着る人を受け入れる。着る人を凌駕しない。
自分の中にも、「何もないゾーン」をつくっておくのは、どうだろうか。
選択肢に、(     )を加えておくだけで、選択肢はぐんと広がる。
「何もないゾーン」をつくっておくと、「自由で柔軟な受け入れゾーン」をつくることになる。
つくりたいなあ。