バーキンつながり

先週、エルメスのバッグ、バーキンに関して、情報が連鎖して、所感が発生した。
まずは、創刊号以来の、雑誌:DRESSの最新号を買ったことから。
創刊号と比べ、かなり大人しい内容になっているのは、ネットに溢れた創刊号の意見を分析して、軌道修正が図られたのだろうか。
最新号には、米倉涼子エルメスバーキンについて「初めてのバーキンは贈り物だったが、それを手にしたとき、いつか自分の力でバーキンを買おうと思った」というコメントを含む記事があり、その次には林真理子が、バーキンを虚栄心を満たしてくれる存在、勲章のようなもの、と定義し、自己の所有する「バーキン最新版」を手にした写真と記事がある。
その記事から数頁後には、DRESS会員200人への、「いつかは欲しい憧れアイテム」のアンケート結果のトップとして、それを手にしたジェーン・バーキンとともにエルメスバーキンが輝いていた。
ふむふむ、こういう記事つながりになっていたわけね。
エルメスバーキンに関しては、半年ほど前に、印象的なセンテンスに逢った。
それは、書籍「ティム・ガンのワードローブレッスン」の中。
「デザイナーズバッグをめぐっては、ある種のファッションカルトが存在します。.....1950年代半ばを境にバッグは機能的な存在からステータスシンボルへと変化したと考えられます。
.......皮肉なことに、ジェーン・バーキン本人は2006年のインタビューで、腱炎になってしまったのでバーキンは使っていないと発言しています。」
!! ねえ知ってた? 知ってた? このこと?
よく、バーキンバッグは重い、といわれるけれど、バッグの創造主のミューズともいうべき存在、ジェーン・バーキンご本人でさえも、その重さに音をあげていたのだ。
DRESSのアンケートで寄せられた結果には、「いつかバーキンを持つのにふさわしい成長をした自分にこそ」「精神的な落ち着きを得た年齢に購入したい」などの意見が見られるが、いや、持ちたければ、筋力がある若いうちに、持ったほうがいいって!と勧めるべきではないだろうか。
しかし、この情報、バッグの売り手である業界側は、広めたくないだろうなあ。
バーキンやケリーを、女性の憧れアイテムのトップとして君臨させておく場合の、業界全体に及ぶメリットってなんだろうか?
私は、女性の金銭感覚を狂わせる効果があるんじゃないか、って思うのだ。
バーキンやケリーの価格を思えば、その価格以下のアイテムが安く思えてしまって、購買行動が増加する効果があるのでは。
私の、バーキンに関する所感はここで終わるはずだった。
しかし、偶然、ファッション誌「BAZAAR」(たぶんアメリカ版かな)で、別の記事に、バーキンがつながったのだ。
それは、ジェーン・バーキンの娘、シャルロット・ゲンズブールの「STYLE STAR CHARLOTTE GAINSBOURG」という短いインタビュー記事だった。
全世界の女性が憧れるバーキンバッグを生んだ母を持つ娘は、どのようなことをコメントしていたか?
Bag?(バッグは何を使っているか?)
→I try to use my pockets. (私、ポケットを使うようにしているの)
!!! な、なんて男前な回答!
つまり、極力バッグは持たないってことだ。
従って、お気に入りのバッグもない。
ちなみに、Lesson from Mom?(母(つまりジェーン・バーキン)からのレッスンは?)という質問には、
→Find a uniform,something that feels true to who you are.
(本当の自分を表していると感じるユニフォームを見つけなさい)
と回答している。
添えられた二枚のシャルロットの写真には、たしかにシルエットが共通していて、マイクロミニ丈に近いドレッシーなデザインのスカートと、スタイリッシュなヒールを履いて、美脚を強調するスタイル。
髪はさらっと流したままで、パーティルックだから荷物がないのは自然かもしれないが、クラッチバッグひとつ持たない手ぶらなスタイルなのが、潔い。
シャルロットは、バーキンバッグ以上に時空を超えるアイコンバッグを生み出すことは、ほぼ不可能であることを、世の中のどの女性よりも、熟知しているのかもしれない。
ある意味、「バーキンを持つ」というスタイルに決して劣らないスタイルがあるとすれば、「バッグそのものを持たない」というスタイルではないだろうか。
米倉涼子よりも林真理子よりも、もしかしてジェーン・バーキンよりも、かっこいいっっ!!シャルロット。
と、ここで私のバーキンに関する所感は終わるはずだった。
ところが、偶然、また別のつながりセンテンスが現れる。
光野桃著:「おしゃれのベーシック」を、二週間前に読んでいたら、そこにまたも、「バッグを持たない人物」の情報が。
「.....アメリカン・ヴォーグの編集長、アナ・ウィンターは、バッグを持っているのを見たことがない稀有な人だ。
.....最新のモードに身を包み、いつも手には招待状と手帳だけを持って歩いていた。
なぜバッグが要らないかといえば、専用の車があるからである。とはいえ他の編集者も車に乗って移動するわけだから、バッグを持たない人生を、アナは選択したのだと思う。」
そう、アナ・ウィンターも、「バッグを持たない人」だったのだ。
光野桃は、アナがバッグを持たない理由について、
「それは特別なゴージャス感だ。ものを持ち歩かなくていい「ご身分」の証。
その身分を長年にわたって死守することが、どれほど大変な努力を要するか。バッグを持たないことは、彼女の矜持なのだろう。」
と考察している。
私は、バーキンバッグでさえもゾロゾロ持っている人々がごまんと存在するファッション業界の中で、どんなバッグにも劣らないスタイルとして、バッグそのものを持たないスタイルを、アナ・ウィンターは戦略として選んでいるんじゃないかなあ、と思う。
こうして、思いがけず、バーキンつながりのコンテンツに次々出逢ったのであった。
最後に、もう一度、ティム・ガンの著書からのセンテンスを紹介。
「途方もない値段のバッグの広告には怒りがこみあげてきます。.......そんなファッション・ヴィクテムになってはいけません。
......私からのアドバイス。ブランドに刻印されることをやめてください。あなた自身がブランドになってください。」
ティムは、バーキンバッグを持つことよりも、途方もないレベルを要求している気がする。