群ようこ「衣もろもろ」

今週のお題「今、読みたい本」
ワンマイルウェアというジャンルの服がある。
自宅からワンマイル(約1.6キロ)以内の範囲に出かけるときの、カジュアルな外出着である。
群ようこのエッセイは、ワンマイルエッセイというジャンルに位置づくものではないだろうか?
エッセイのネタは、作者のワンマイル以内で起こる、という感覚があるのだ。
(なんか「サザエさん」とか「ちびまる子ちゃん」的だ)
作者の視点の近さも、いい。
林真理子のエッセイは、出歩く楽しさというイメージがあるが、群ようこは、ひきこもる楽しさに満ちたエッセイなのである。
前作はたしか、その視点の近さが思い切り生きた、飼い猫や近所猫についてのエッセイだったと思う。
これは猫好きだとかなり楽しいと思うが、犬派の私は、今回は買わなくてもいいかな、で終わってしまった。
最新作のテーマは、衣服である。これは買うしかないでしょっ。
群ようこは、自己評価低めの描写をする方である。(林真理子は、おそらく反対ですね)
しかし、持ちもの、着るもの、食べるもの、などの、ワンマイル・グッズには、彼女独自のこだわりや厳しさがある人である。
そのこだわり方や、悩み方が、エッセイの面白さの核である。
群ようこの、審美眼というより、審「質」眼は、「通販生活」っぽい信頼性がある。
この本「衣もろもろ」で、面白い情報を得た。
「服の値段とお手入れ」という章で、みんなが着ている、某有名メーカーの服を買った経験があるが、飼い猫がその服を嫌うので、買わなくなってしまった、という内容。
そういえば、私の妹が、以前、庭の木の枝に、毎日みかんを半分に切って刺しておいたら、ペアのめじろが食べにくるようになった。
ある日、みかんではなく輸入物のオレンジを刺したら、めじろは、それには全く口をつけなかった、ということがあったそうだ。
人間には気がつかない何かに、鳥(動物)は気づいているということになる。
私も「某有名メーカー」のメリノウールのニットを、買ってみたものの、手触りは柔らかくて良質そうな生地だったのに、着ていると、説明できない、かすかな違和感がずっと消えなくて、室内着にしてしまっている。
そのメーカーのメリノウールニットの約3倍の価格のバナリパのニット、約10倍の価格のジョンスメのニットには、違和感が起こらない。
服は値段ではないかもしれないが、自分の中から起こる、かすかな違和感は、動物が備える防衛本能のようなものだとでも思って、大切にしたほうがいいかもしれない。
ジョンスメのニットのタグには、ストレスを与えない環境で育てられたヘルシーな羊の毛から作りました、云々という説明があって、「ヘルシーな羊…」と、なんか感動した。
たしかに、羊も生き物なのだから、ストレスフルな日々を送っている羊の毛と、健康的な日々を送っている羊の毛では、身にまとったときに感じるエネルギーの質が、ちがうような気がする。
食べものだけではなく、着るものにも、オレンジに口をつけなかっためじろのような、審「質」眼を、私も持てるだろうか?
持てるといいけど。